ここ本当に国道なの? と思ってしまう道は、いつしか「酷道」と文字られて呼ばれるようになった。新潟県と福島県をつなぐ国道352号線も、その世界では知られた道だ。果たして、どんな道なのか。万全を期してスズキ『SV650 ABS』で挑む。

地図を見るからにヤバそうな気配がする国道352号線

県境の長いトンネルを抜けると、気温は15度であった。

湯沢温泉の街並みが見え、景色が変わるのとともに、気温が下がった。凛とした空気感は、秋を通り越し冬を思わせるものだ。

シルバーウイークの最終日、東京はまだまだ暑く、メッシュジャケットで出るか迷ったが、秋物を引っ張り出してきて正解だった。グローブはすでに予備で持ってきたウインターグローブに付け替えている。

新潟県小出ICから関越道を降りたのは、朝6時半。上手く寝付けずに仮眠をとって3時半に、東京の自宅を出た。

群馬県吉岡町の関越道・駒寄PAにて。夜が明けた。

SV650はパワフルで、思いのほかに直進安定性も高かった。水冷Vツインの鼓動を感じながら、たんたんと夜から朝へと走っていたら、もう新潟県だ。大型バイクの特権ともいえる高速道路でのワープ感は、ミドルクラスのSV650でも得られる。疲れや眠気はいっさいない。

ガソリンを入れて、人間のチャージもすき家ですまし、準備は整った。酷道の旅が始まる。

燃費は21.6km/Lだった。231km走って10.66Lの給油。ほぼ高速道路の走行。SV650の油種はレギュラー。

新潟県魚沼市「井田新田」の交差点で国道352号線にスイッチした。沿線には住宅が並ぶ、どこにでもありそうな普通の片側1車線の道だ。

下調べはほぼしていない。通行止め情報が出ていないか確認しただけだ。何年も前に「あの道はマジでヤバい。絶対行かない方がいい」と経験者の知人から聞いていた。

地図は見た。たしかにそれだけで、ヤバそうに見える。ヤバいということを聞いてからずっと行きたいと思っていた道だ。

スズキ『SV650』を相棒に選ぶ

でもSV650となら行ける、と思った。長距離を快適に移動できて、低速トルクがあり、激狭のワインディングでも扱いきれるバイク。

そんな条件をピタリと満たすのが僕の中で、SV650だったのだ。

国道352号線は依然として、片道1車線ずつある平凡な道だ。二輪車は通行できない有料道路「奥只見シルバーライン」の入口を過ぎると、こぢんまりした温泉街「大湯温泉」へと出た。

奥只見シルバーラインの入口にて。二輪車は走行できず、奥只見湖へ行きたければ、酷道と称される国道352号線を走らなければならい。

絶対に行っちゃダメと言いたい「酷道352号線 樹海ライン」

温泉街を出た瞬間だ。

突然センターラインはなくなった。道は木々で覆われ晴れているのに薄暗い。

ヘルメットスピーカーで薄く流していた音楽が突然消えた。バイクを止めてスマホを見ると電波が入っていない。クラウドの音楽プレーヤーが使えなくなったのだ。

どっちにしろ音楽を聴いている余裕はなさそうだ、と思った矢先だ。酷道たるゆえん、思う存分に堪能させてもらおうじゃないか!

森を抜けると景色は開け、再び立派な2車線に戻る。予想していたよりも路面の整備が行き届いていてこの上なく走りやすい。

(下に続きます)

快走路と化した道に、巷の噂や知人の「ヤバい」という助言は大げさなものだったのかもしれない。

つづら折りの先、道が黒く見える。なんだ? 水!

沢が道をまたいでいた。急ブレーキで沢の手前まで速度を落としパーシャルでやりすごした。背筋に冷や汗が流れる。

そしてまた、すぐに道幅は狭まった。ブラインドコーナーが連続する。クルマでは絶対に来たくない。SV650でホントによかった。

コーナーでは視界が全然開けず、飛ばすことはできないもののSV650のスリムなボディとフィット感のおかげで安心感がある。

道は相変わらず整備されていて、酷道にありがちな落石が粉砕した砂利もほとんど見当たらない。

コーナーの先をのぞくようにリーンアウトで走りながら、上っていく。これ、上りはいいけど、下りは嫌だな、と思っていたら駐車場が見えた。

え、こんなにクルマ来るの? と思うほど駐車場はびっちりと埋まっている。そこで居合わせた地元のライダーの話によると、登山道の入口になっているらしい。枝折峠といい、雲海のスポットとしても知られているとのこと。

だから、明け方から駐車場にはクルマが入ってくるのだそう。

枝折峠の駐車場。標高は1065メートル。ここまで走った対価として絶景を期待していたが、徒歩でしばらく登山をしないと特に何も見えないらしい。

完全に油断していたことに気づく。ワインディングに入ってからここまで約10km、一度も対向車は来なかった。時刻は9時を過ぎた。一般的な観光客やライダーが動き出す時間だ。

この道、噂にたがわずすごいですね、と地元のライダーに話すと「下りは短めです。あとちょっとですよ」と、すでに恐怖を抱いていることに勘づいたのか、優しい言葉をかけてくれる。ってか、ここから下りなんですね。まあ峠とはそういうものか、気を引き締める。

たしかに下りの区間は短めだった。依然道は狭いままだが、対向車や突然の沢に気を付けていたら、太い道へと出ることができた。

「はあ、やっと終わった」と思い、トイレのある広い駐車場で休憩しながらSV650の写真を撮る。危ない道だけど、そんなに長くなくてよかった。

トイレをすまし、何気なくGoogleマップを開いた。

大甘だったと気づくことになる。

「あれ……全体の3分の1も走ってないぞ、これ……」

《後編へ続く》

文・写真:西野鉄兵

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注意:この道は本物だと思いました。行かない方が身のためです。

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