ただのショートストローク型エンジンじゃない
「新時代のスポーツバイクを楽しむ」をコンセプトに新設計された、スズキの775ccDOHC並列2気筒エンジン。
2023年に登場したミドルネイキッドスポーツモデル『GSX-8S』へ初搭載され、ロードアドベンチャーの中核を担う『V-Strom 800 /DE』にも採用されています。
2024年には『GSX-8R』もリリースされ、新型エンジンを採用したモデルは4台となりました。
それぞれ特徴の異なる3台のモデルに搭載されるこのエンジン。
私(石神)は『GSX-8S』に試乗しましたが、なによりの驚きは、高回転での強力なパワーと低回転での扱いやすさを高い次元で両立していることです。
高回転では公表されたスペックを疑うほどのパワフルさを見せ、その吹け上がり感は正にショートストロークのパワー型スポーツエンジンといった感じ。
一方で、街中での常用回転域でも十分トルクフルで扱いやすく、発進から低回転トルク型エンジンのような力強さも見せる……って、そんなことあっていいの!?
高回転でのパワー、低回転でのトルク。内燃機エンジンというのは、どちらかを取ればどちらかを犠牲にしてしまうような選択ですが、この新型エンジンは両方の特性を高い次元で両立しています。
その秘訣のうちのひとつがショートストロークエンジンでありながら比較的ストローク量が長めに設計されていること。
内燃機エンジンはその特性として、いわゆる「ショートストローク」型のエンジンは回転数を上げられて高出力を発揮することができます。
現代の多くのバイクに採用されているカタチで、より高い最高出力を求めることができ、基本的な性格としてはスポーティーなものになります。
デメリットとしては、高回転域では性能を発揮できる代わり、低回転域でのトルク、つまり地面を蹴りだす力が弱くなってしまいます。
反対に「ロングストローク」エンジンは、低回転域で力強く地面を蹴りだすトルクフルな性格で、発進を含む常用回転域において扱いやすい特性となります。
しかし反対に構造上高回転化することが難しく、ショートストロークエンジンに比べ高い最高出力は見込めなくなってしまいます。
「ショートストローク」と「ロングストローク」。内燃機エンジンはそれぞれの中でも内径と行程の比率により上記のような特性の変化があり、開発段階で作りたいエンジン特性に見合ったフィーリングになるよう設計していくものになります。
で、スズキの新型並列2気筒エンジンのシリンダーの内径は84.0mmで行程は70.0mm。
これはショートストロークエンジンの中でもストロークが長めに設定されていて、ショートストロークエンジンにロングストロークエンジンのような低回転での力強さをプラスしているんです。
なのでこのエンジンは高回転においてスポーツバイクにふさわしい強力なパワーを楽しめて、なおかつ低回転でも十分なトルクを発生させるため市街地での常用回転域も扱いやすい。まさに『良いとこ取り』なのですが、実はこれこそが『トルクがあって扱いやすいバイクは結果的にスポーティにも走れる』というスズキのスポーツバイク哲学そのものなんです。
弱点もある……はずなんだけど!?
ただ、ストロークの長いエンジンには「振動が大きくなりやすい」という特徴もあります。
バイクにおいて「心地よい振動」は魅力を高める要素のひとつですが、スポーツライディングにおいて高回転域で激しく高速振動されたんじゃライダーはたまったのものではありません。
しかしこのエンジンはショートストロークの中では長めのストローク量でありながらも、高回転で回しても至ってスムーズに回っていきます。
その秘訣が、新型エンジンに搭載された新機構「スズキクロスバランサー」です!
資料には、1次、2次振動? とか、偶力、振動……? とかなんとか色々記載されていますが、ごく簡単に説明すると上下に動くピストンによる振動に対し、クランクシャフトの前方と下部に90°間隔で2つのバランサーを配置し振動を相殺するといった機構です。
また、スズキクロスバランサーを採用することで振動抑制だけでなく、前後方向のエンジン長も短くすることができ、エンジンのコンパクト化に貢献しています。
また「スズキクラッチアシストシステム」により、クラッチレバーが非常に軽く、手の疲労軽減に繋がる上、そのクラッチレバーも「双方向クラッチシステム」により握る回数を減らせます。
そして、電子制御による味付けの変更で、このエンジンは搭載される車体に合わせて魅力の方向性を大幅に増大します!
『GSX-8S』に搭載すればシーンを選ばず扱いやすく、『GSX-8R』に搭載すればワインディングからサーキット走行まで楽しめて、『Vストローム800』に搭載すれば、快適なロングツーリングを可能にします。
正に、あらゆるジャンルにオールマイティーに適合する、新時代のスポーツバイクにアジャストされたエンジンなのです!
(下に続きます)
構造にも感嘆してしまいますが、やはりこのエンジンの一番スゴいところは乗った人を魅了してしまうところだと思います!
個人的にも、こんなに扱いやすくも手強い、そして楽しみ甲斐のあるエンジンは初めて!
この新型エンジンを搭載したモデルたちは、スタイリングもシャープでスポーティーなものが多く、見た目で気になっている方も乗って後悔はしないと思いますよ!
【文:石神邦比古(外部ライター)】