中速域のトルクが増強された新生『GSX250R』でワインディングへ
街中において、ごく普通のアクセルワークで走らせるGSX250Rは、2022モデルまでの従来型と体感的なフィーリングは『まったく同じ』と言っていいと思います。
先の【中編】で言ったとおりですが『アクセルをゆっくり開ける』という操作の中では、これまでと変わらず限りなく優しい。バイク初心者の人だって自信をもって運転できる扱いやすさを標準装備しています。
だけどワインディングに持ち込んだ2023モデルは、やっぱり従来型とは大きく違いました。
これまでのGSX250Rは、どこまでいっても扱いやすさと安定感を軸にした走りかたがメイン。私(北岡)の場合、ワインディングでは『GSX250Rのキャラに寄り添う走り』を無意識にしてきたと思っています。
それがどうしたことか……
2023モデルで峠を走ると、これまでのGSX250Rでは感じなかった『欲』が出てくるんです。
GSX250Rの車体設計は基本的に『扱いやすさと安心感』で構成されているので、前後17インチホイールながらハンドリングは穏やかな特性。
でも私は今回、その優しさを逆に“もどかしい”と感じてしまった……。
2023モデルで改良されたエンジンは、最新の排ガス規制をパスしつつも、GSX250R最大の特徴である低~中速域のトルクをキープ。触媒の追加などで本来であればパワーダウンを余儀なくされるところを、スズキのエンジニア陣が本気で取り組んだ結果、逆に5000回転付近の中速トルクを増強してきました。
もちろん最高出力だってキープされています。
大幅に手を加えられた『メーカー製のメカチューン』とも言える新エンジンの詳細な仕様については、先に2023モデルのVストローム250に乗った際にお伝えしてありますので、ここでは割愛。
お時間のあるかたは、下の過去記事をご覧いただけると幸いです。
エンジン内部や吸排気、ECUのセッティングまで全面的に見直されたエンジンは、明らかにこれまでより爽快に吹け上がります。なので必然的に、コーナーへの進入も従来型よりスピードが高くなる。
すると何が起こるか……
従来型のつもりのままだと、車体を寝かせ始めるのが遅れてしまうんです。
その結果、狙ったラインにバイクを乗せられない。上の写真みたいにインにつけずに膨らむ。慌てて軌道修正を試みるけど時すでに遅し……
曲がり切れない不安からブレーキも放せず、ロクにバイクを寝かせることもできず、グダグダでコーナーをやりすごすハメに。実話ですが、走りながら『うわぁ今の俺、カッコわるっ!?』と何度も自分にツッコミを入れながら走ってました。
それくらいに新しいエンジンは『違う』んです。
性能的な部分だけでなく、気分的にアクセルを開けるのが楽しいことも手伝って、コーナーに対し『突っ込みすぎ』に近い状態になっちゃう。それをアジャストしていく訳ですが、私の感覚としては『従来型より“バイクを曲げるポイント”を2~3メートルくらい手前に設定する』ことが必要だと感じていました。
なので当然、ブレーキも従来型以上に早く終わらせなければなりません……って!?
これじゃまるで、ガチ系のスポーツバイクに乗ってるような(汗)
ですが事実として、私はGSX250Rというバイクをどう走らせてやるか、に必死になっていました。
ただガチ系スポーツと違うのは、やっぱり安心感が土台のGSX250Rなので、実際に走っている速度は常識の範囲内だということ。
絶対的なスピードで言えば、それほどじゃないと思います。でも、あの時の私にそんなことは『実にどうでもいいこと』でした。
ひたすら楽しい!
安心できる範囲内で、自分の全力をぶつけていける。次のコーナーはああしよう、こうしてみようってそればっかり考えてた。走ることに夢中。そういう感じです。
ここまでの気持ちの盛り上がり……従来型GSX250Rでは感じたことがありません。
スピードじゃない。乗り手を楽しませる“スポーツバイク”に!
乗り手を怖がらせないハンドリングとバンク中の安定感をスポーティさに変換する。そのためにライダー側が工夫をするんです。
ブレーキはどこまで残すべきか、ライディングフォームはどうするべきか。シートへの着座位置まで真剣に考えて、新生GSX250Rに合わせた走りを構築していきます。
ただ安心感はもともと強いバイクなので、試行錯誤してみることに躊躇はありません。いろんなことをダイナミックに試していけます。
ああでもない、こうでもない。
そうこうするうちに、だんだんGSX250Rとの距離が近くなってきた感覚があって、仲良くなってきて……
後で写真を見たら、頭の位置も上半身もいつの間にかめちゃくちゃ低く構えてました。物理的にバイクとの距離、近くなっとるやん(笑)
あともう一歩踏み込めれば、たぶん自分で納得するレベルまで持っていける。そう感じつつ、走りに集中していたんですが……
ちくしょう、今年の夏ってばよ!
いきなりドサーッ!とゲリラ豪雨に見舞われました。
さっきまで晴天で完璧なコンディションだったのに、一瞬で路面はフルウェット。その瞬間に『あ、今日はここまでだな』と。気持ち的に“全力スポーツ中”だったので、引き際の判断も早かったです。
正直に言うと、もっと走りたかった。
だけど、なんとなくで走るべきじゃない、ちゃんとした環境の中でGSX250Rを走らせてやりたい! っていう気持ちが勝ったんです。2023モデルのGSX250Rは、そういう判断をしたくなる『スポーツバイク』になった、ということなんだろうと個人的には思っています。
(下に続きます)
そして、やっぱり『エンジンはバイクの魅力の中核』だということを、今回は改めて感じました。だってGSX250Rでのワインディングは、バイク乗りとして至福の時間でしたから。
とはいえ誤解しちゃいけません。本質は変わってない。GSX250Rはスーパースポーツになった訳じゃありません。
でもスポーティに走っても楽しくて、ワインディングで夢中になれる“スポーツバイク”になったっていうことだけは確実!
これ、ちょっと良いぞ?
2023モデルのGSX250R、けっこう本気で気に入ったかも!
【文/北岡博樹(モーターマガジン社)】