Vストローム650は『オーナー』になった後にこそ……
バイクでのツーリングは出発前に思い描いたとおりには事が運ばないのが世の常ですが、まさか暑さで苦しむことになろうとは……
でも、そんな時に助け舟を出してくれたのがVストローム650XTでした。先の【後編】でお伝えした通りですが、走っている最中のほうが身体が休まる気がするだなんて……信じられます?
そうして折り返し地点をクリアした『日帰り伊豆1周500kmツーリング』ですが、暑さのピークを切り抜ける術を得たため、その後の行程にはちょっと余裕ができました。
南伊豆をぐるっと回って海沿いをクルージング。
体力的に疲れを感じる頃合いに、Vストローム650XTは本当に優しくライダーを守ってくれます。アクセル自体の操作が軽くて、排気サウンドもゆっくり走っているぶんには静かなものだから、音に疲れることもない。
そして、650XTに限った話ではありませんが「Vストローム」シリーズに共通する極めてスムーズなエンジンの回転フィーリングはこういう時にこそ本領を発揮します。
元気な時だったら『ガッ!』とパワフルに加速するエンジンも楽しいのですが、走る距離が長くなればなるほど、そのスムーズさが乗り手にとっての助けとなるんです。加速も減速も、走ることに対して必要以上に神経質にならなくていい。
しかも、Vストローム650シリーズに共通する鉄壁の安定感がさらなるリラックスを与えてくれます。優秀すぎるだろ……旅バイクとして。
しかもねぇ……それだけじゃない。優しいだけじゃないんですよ!
それに気づいたのは、海沿いクルージングから仁科峠~西伊豆スカイラインへ向かうために内陸部へ入った後のことでした。
ここから先、高原地帯へ出る前にはちょっとタイトな道が続くんですが……
このバイク、走らせること自体が楽しいんです。
いやバイクは基本的に全部そうなんですけど、まじりっけが無いというか……電子制御でフル武装した最新バイクとは少し違う感じ。のんびりしたい時はバイクまかせでも走っていけるのに、ライダー側が積極的に操る意思を示すと、それに活き活きと応えてくるんです。
積極的にバイクを操る面白さが『濃い』とでも言いましょうか。
Vストローム650シリーズの電子制御はABSとトラクションコントロールのみ。パワーモードセレクターとかはありません。
でもだからこそ『バイクらしさ』が強く感じられるんです。最新の電子制御技術は素晴らしいものなので否定するつもりは一切ありませんが……これはこれで魅力があると思う。バイクと二人三脚、あるいは一体感。そういうものを楽しめます。
そうして高原地帯へ到達してみると、標高的にも時間的にも暑さが和らいできて……不思議なもので季節外れの暑さでやられていた体力にも余裕が戻ってきました。
ここまで持ち直せるのも『バイクがVストローム650XTだから』なのでしょうけれど。
気分的にはツーリング第2部がスタートしたような感じ。
涼やかな風を切って走るツーリングの醍醐味とバイクに乗ることの幸せを全身で感じつつ、西伊豆スカイラインまでのワインディングを……あっという間に駆け抜けてしまいました(笑)
時間は午後4時ちょっと前。
季節的に秋を感じる今日このごろでは、すこし日が傾いてくる時間帯。あとはこのまま西伊豆スカイラインを降りて、修善寺道路から伊豆中央道をつないで新東名で帰れば、スマートな時間帯に日帰り伊豆1周ツーリングが完了なのです……がっ!
なんか……走り足りない気がしてきた。ここにきて(笑)
いや普通「もう十分でしょ」って感じるはずなんだけど!? 朝からずっと走ってるんだけど!?
でもまだ走りたかったので、走ることにしました。予定とは逆方向で西伊豆スカイラインから海側・戸田方面へ下り、ラストに海沿いワインディング(県道17号線)をもう一本! おかわりっ!
我ながらアホな選択をしていると思いつつ、当然のように……
高速道路に乗る前に日が暮れた。
自業自得。まぁ仕方ない(笑)
いいんだ、楽しいから。ソロツーリングってこういう自由さが良いところ! 相棒のVストローム650XTは「俺はまだまだイケるからな?」って言ってる気がするしね。
でもまぁ……わかった気がするナァ。
私の今日1日みたいな体験したら、誰だってVストローム650シリーズに惚れるよ。離れられなくなる。
苦楽を共にして、しんどい時にはバイクが助けてくれて、その先に『バイク乗りとしての幸せ』を感じられて。
今回みたいな日帰り程度じゃなくて、北海道とか、もっとビッグなツーリングだったら、そういう気持ちはもっと強くなるだろうし。
もうね、帰ってる最中から『家についたらひとっ風呂浴びてキンキンに冷えたビールだな!』って思ってた。実際そうした。すごく満足して、いい感じに疲れて、寝落ちした!
いや幸せすぎでしょ……バイク乗りとして。
(下に続きます)
Vストローム650シリーズには、その上位機種としてボスキャラの1050シリーズや、ある意味で1050以上だと感じる新型800シリーズが控えています。
でもね?
だからって650が色褪せたわけじゃない!
スズキが生んだ奇跡のバイク、レンタルでも何でもいいから1回くらい乗ってみて! がっつり乗り込んだらきっと、絶対好きになっちゃうんだから!
【文/北岡博樹(モーターマガジン社)】